第17回:ローマ字読みの問題

 前回灰色の犀の話をした。最近ブログなどで話題の言葉で、めったに起こらないが、発生すると壊滅的な被害を引き起こす現象を「ブラック・スワン」(黒い白鳥)と呼び、発生する確率が高い潜在的リスクを「グレイ・リノ」(灰色の犀)と言うのだそうだ。そこまでは良いのだが、英語の”Gray rhino”の”rhino”を「リノ」と間違って読む人がいる。英語ではこの単語を「ライノ」と発音するのだと言った話だった。

日本人のこの様な間違いは英単語をローマ字読みにする為の間違いが多い。似たような例が今流行のウィルス(virus)ウィルスだ。ウィルスは英語の読みではない、ヴィルスでもない。敢えて片仮名に置き換えるなら「ヴァイラス」だろう。ローマ字読みがある事が日本人の英語の発音の誤りとかなり関係があるのではないだろうか。

しかし、英語アナウンサーともなればこの様なミスは許されない。日本人の英語の発音はローマ字読みも含めた日本語的発音に大幅に足を引っ張られているため根底からやり直さなければならない。

応用言語学の特に”speech clinic”で正しい発音の指導を受けるのが、大変だが手っ取り早い方法だと思う。以前このコラムに登場した英語アナウンサーの大先輩諸氏の最盛期に彼らに教わる事が出来た人達は素晴らしい機会を得たことになる。

 しかし英語アナウンスはさておき英語の発音の「肝」は何だろう。僕はそれは強弱アクセントだと思う。日本語はピッチ(音の高低)アクセントなのでこのあたりが対照的で切り替えは困難を伴う。日本人が英語の強(強い)アクセントを聞くと日本語の高(高い)アクセントと聞き違えする傾向がある。また英語には伸ばす音が基本的にはない。長母音に聞こえる言葉の多くは二重母音であることが多い、この辺の置換が上手にできると発音がかなり良くなる可能性はある。

練習に、例えば地名の東京を英語的に発音してみてはどうだろう。東京の東は「トー」と高く伸びる、東京の京「キョー」と長く低く。「トーキョー」だ。次に英語の真似をして東京を発音してみよう。東京の東はアクセントの乗った「’To」、東京の京は「kyo 」。「’Tokyo」「トッキョ」(仮にカタカナ化すると)だ。大阪は「オッサッカ」(仮にカタカナ化すると)に近くなるだろう。

 もう少し厄介なことを提案すると、上記はあくまで発音の練習であって、僕は個人的には英語アナウンスをするときに日本の地名は日本語の発音に近く、英語の強弱に変えない方が良いと思っている人間だ。既に東京とか大阪のように英語圏の人の耳にトッキョだのオッサッカなどと耳慣れてしまっているものは仕方がないかもしれないが、その他は元の音に近く。日本の人名地名はを元の音に忠実に読もうとすると、かなりゆっくり読まなければならないとは思う。奇異に聞こえる可能性もある。しかし日本の人名地名はあくまで日本の人名地名であって英語の流れの中で奇異に聞こえても致し方ないのではないかと思う。

 強弱アクセント関連で、英語の発音のヒントを一つ書くと、はっきり発音しなければいけないのはアクセントが載っている部分だけであって、その他の部分はほとんど聞こえなくても良い、つまりあいまい母音で構わない。国際発音記号だと逆さまのe。だがタイプライターに文字がない場合はeとhで”eh”と表記されるようだ。先ほどの「ライノ」で言うと[’RAI-neh]と言ったところだろうか。二重母音のAとIが繋がりRA-Iと聞こえれば、後のnoの部分はnがかすかに聞こえれば良い。

この辺りは「肝」の部分なので、いずれまたと思っている。

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