第058回:大統領就任式に登場したロバートフロスト

60年前、1961年1月20日、アメリカの国民は次の有名な言葉を聞いた。

“Ask not what your country can do for you. But ask what you can do for your country. “

(あなたの国があなたのために何をしてくれるのか、は聞かないで下さい。あなたがあなたの国のために何ができるか、を聞いて下さい。)

第35代アメリカ合衆国大統領に就任した若いケネディ大統領のいまも記憶に残る言葉だ。

この後、当時最も有名だったアメリカの「国民的詩人」、ギリシャの故事に因んで月桂詩人poet laureate と呼ばれていたロバート・フロストが壇上に立ち、就任を祝う言葉を述べた。この日のためにケネディは以前フロストが書いた詩を朗読してくれる様、リクエストしていた。それはフロストが1942年に書いた、 ”The Gift Outright “ (惜しげなく与えられた贈り物)と言う詩だった。そして結局これを暗唱することになるのだが、その前にフロストはケネディを喜ばせようと思ってか、“Dedication“(贈る言葉)という別の詩も持参していた。そしてタイプした紙を広げて読もうとしたが、当時86歳の詩人には雪の反射するワシントンの光はあまりにまぶしく、用意した原稿が読めなかった。

僕はテレビで就任式の一部始終を見ていたのだが、記憶ではフロストは詩の朗読を全く辞めて、簡単に詩の内容を説明して終わったのだと思っていた。しかし、もう一度YouTubeに記録された光景を見直してみたところ実は、この日のために新しく書いた詩の内容を簡単に説明した後、本来ケネディに朗読を依頼されていた”The Gift Outright “を暗唱したと言うのが事実だったようだ。

暗唱されたのは非常に短い詩であり、僕自身まだアメリカに渡って3年しかたっていなかったので誤解したようだ。

これがその詩だ。

”The Gift Outright “

The land was ours before we were the land’s.

She was our land more than a hundred years

Before we were her people. She was ours

In Massachusetts, in Virginia,

But we were England’s, still colonials,

Possessing what we still were unpossessed by,

Possessed by what we now no more possessed.

Something we were withholding made us weak

Until we found out that it was ourselves

We were withholding from our land of living,

And forthwith found salvation in surrender.

Such as we were we gave ourselves outright

(The deed of gift was many deeds of war)

To the land vaguely realizing westward,

But still unstoried, artless, unenhanced,

Such as she was, such as she would become.

一応翻訳してみたが、なかなか難解で、時間が有ればもう少し意訳をしなければならない。アメリカ史を簡単におさらいしているのだそうだが、アメリカ人が真のアメリカ人になるまでの過程は、海外(特に英国)に本拠地がある植民地の人間と言う立場を捨てた(降伏した)時に成立した、と言っている様に思う。

「惜しげなき贈り物」

私たちがこの土地の者になる前から土地は私たちのものだった

この土地の民になる前、100年以上前から土地は私たちのものだった、

特にマサチューセッツ州とバージニア州は。しかし、私たちはイギリスの、まだ植民地の人間だった。

私たちは私たちがまだ所有していない土地、

そして私たちがもう所有していない土地に取り憑かれていた。

私たちが差し控えていた何かが私たちを弱くした。それが私たちを、自分たちの住む国から差し控えていた、私たち自身であることが分かるまで。

そして救いはすぐに降伏の中に見つかつた。

私たちは私たちを惜しげなく与えた

(その証は多くの戦いだった)

私たちは漠然と西部へ向かったが、

まだ歴史もなく、ありのままで、拡張もされていない、

土地はそうであり、そうなるかも知れない。

フロストは、この暗唱の最後の言葉をこう言い換えた。

土地はそうであり、そうなるであろう。

難解である。これからアメリカの黄金時代が始まる、と言っている様に思える。

時は1961年1月20日。まだアメリカが理想に燃えている時だった。