第042回:原 二郎さんの事

原次郎さんは職場の大先輩だ。2011年の1月に亡くなられてからもう9年になる。アナウンスの名手中心に書いてきたが、原二郎さんはそのような人ではなかった。しかし英文学そして日本文学に対する造詣がある方だった。

つい最近原さんが翻訳された英国の詩の本を見つけた。「へぼちぐさの唄」というざっと200ページくらいの小ぶりの本だが、このタイトルなどいかにも原さんらしいと思う。「へぼちぐさ」は日の当たらない所に育つ草だ。出来の悪いというニュアンスもあるようで辞書には「ヘボ胡瓜」という言葉がみられる。原さんは決して日が当たる立場にいた方ではないので、「へぼちぐさ」に共鳴したのかもしれない。その冒頭に原さんが訳された詩が下記の詩で、タイトルのThe Babes in the Woodは英語では辞書にも載っている。A babe in the wood(s)が普通だ。意味は「(米・くだけて)だまされやすい人, カモ; 世間知らず」の事を言う。僕は長い間赤子は騙しやすいので(日本語にも易々とできることを「赤子の手を捻るほど簡単だ」などと言う様だが)できた言い回しだとばかり思っていたが、実は出典があったのだ。少し長いが原典と翻訳を載せておきたい。

The Babes in the Wood

My dear, do you know

How a long time ago,

 Two poor little children,

Whose names I don’t know,

Were stolen away

On a fine summer’s day,

 And left in a wood,

As I’ve heard people say.

And when it was night,

So sad was their plight,

 The sun it went down,

And the moon gave no light!

They sobbed and they sighed,

And they bitterly cried,

 And the poor little things,

They lay down and died.

And when they were dead,

The robins so red

 Brought strawberry leaves

And over them spread;

And all the day long,

They sang them this song 一

 Poor babes in the wood!

 Poor babes in the‘wood!

And won’t you remember

 The poor babes in the wood?

         (Anonymous)

森のおさなご

あのね 知ってるかい

ずっと前のことだけど

 可哀想に 子供が二人

名前は分からないけど

さらわれたんだって

ある晴れた夏の曰だった

 それで 森の奥にね

おいてきぼりにされたって

それで 夜になると

どう していいか 悲しいね

 お日さまは沈んじまった

お月さまの光もなぃ

二人ともしくしく泣いた

二人とも声をからして泣き叫んだ

 可哀想に 二人はやがて

横になって そして死んだんだ

二人が死んじまう とね

真っ赤なコマドリ がやってきて

イチゴの葉っぱをとってきて

二人をすっぽり覆ったとさ

そして日がな一日

こんな歌を唄ったとさ

 可哀相なのは この子たち

 森の奥の この子たち

だから忘れないでおくれよね

 森の奥のこの子たちのこと

            (作者不明)

原さんの優しさが伝わってくるようだ。