第16回:発音の事

 最近話題の言葉に「ブラック・スワン」(黒い白鳥)と「グレイ・リノ」(灰色の犀)と言うのがある。これは金融市場の専門用語で、アメリカの経済学者が2013年のダボス会議で提起した経済用語らしい。簡単に説明すると「リーマン・ショック」のように、めったに起こらないが、発生すると壊滅的な被害を引き起こす現象を「ブラック・スワン」(黒い白鳥)と呼び、発生する確率が高い潜在的リスクを「グレイ・リノ」(灰色の犀)と言うのだそうだ。

さて、なぜこんな言葉を英語アナウンス関連で持ち出すのか。実は、我々が英語の発音だと思って使っているローマ字読みが実は全く違うことがある。例えば、ここに登場するリノと読まれている単語だ。綴りは”rhino”. 日本語の意味は犀だと説明してあるが、この読みが英語で通用すると思うと実は、全く理解されないだろう。日本人がこの言葉の綴りを見て適当に(これしかない?と思って)ローマ字読みした結果がこれなのだが、本当の発音は、片仮名で書くと、「ライノ」だ。短縮されていて本来は「ライノセロス」(rhinoceros)だが省略形である”rhino”もよく使われる。そして、それが正しいと思って使われている英語の読みは、全然違うという例だ。

英語にはこういう落とし穴が結構ある。これは”i”をローマ字読みするために起きる問題で、一般的には英語の”i”は「アイ」と発音される場合が多い。しかし時には”Iran”, “Iraq,” などの様に「イラン」「イラク」が辞書に載っている通常の発音なのにアメリカの無学な(ごめんなさい)庶民は「アイラン」「アイラック」と発音するし、仮に辞書に載っていなくても、庶民レベルでは発音が両方あるから事は厄介だ。ブッシュ大統領(はっきり覚えているのは息子の方)の様にマッチョを装う白人男性が「アイラック」等と発音する場合もあるので事は複雑だ。

勿論英語アナウンサーの立場では標準であれば良いのだが、“i”の発音は英語、米語の違いもあるので気をつけなければならない。まかり間違うと綴錦に英語と米語の発音を混ぜてしまう事になる。そしてもう一つ厄介な事はアメリカ英語がテレビ、映画などを通じてイギリスでも主たる発音になる場合がある事だ。

 最後に話を僕の専門であった国際放送に戻すと、面白いのはテレビ国際放送でBBCが基本的にはイギリス英語であるのは当然としてもCNNは一瞬BBCを見ているのかと思うほどイギリス英語の人物が登場する事もある事だ。クリスチャン・アマンプール(Christian Amanpour)が一つの例で、彼女の英語は米語とは言えない。一時期CNNでイギリス英語のキャスター、レポーターが目立つ時期があったが、よほど優れた人材は別として、やはりアメリカの放送局は国際放送といえどもBBCの真似などしないで標準的な米語で放送してもらいたいものだ。

日本の様に英語を母語としない国の場合、贅沢は言っていられないし、あるスタンダードをクリアした場合はどちらでも良いのかもしれないが、登場するキャスターまたキャスターが日系人でやや庶民的なアメリカ英語で放送すると、ここはアメリカの属国かと思わせる可能性もあるので、もう少しニュートラルな、どちらかというとカナダなどのイギリス寄りの、いわゆるミッド・アトランチックな英語の方が日本のイメージを良くするのではないかと思える。しかし苦言を呈するが、最近NHKの、本籍が国際部(その昔外信部)の日本人レポーターが、聞いていてもすぐには何を言っているのか分からないような英語で放送するのは、かなりのイメージダウンにつながる可能性があるのでやめて欲しい。その様な人は裏方に徹してもらいたいものだ。

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