第5回:国際放送の英語

 英語を日常使っている国の放送英語には標準的な英語が使われる。これは日本語の場合でもそうだが標準語は多分にアーテフィシアル(造られた)なもので、一番権威がある階級、地域のそれを踏まえて造られることは間違いない。

ではイギリスの場合はどうか。筆者の知識の圏外なのを大目に見ていただくとして、常識の範疇で大雑把に言えばイギリス南部ロンドン周辺の上流階級の英語と言うことができるのではないだろうか。標準英語は、放送でさらに権威を得たのでこの英語をBBC Englishと言うし、容認された英語であるのでreceived pronunciationともいうわけだ。しかし、そもそもの権威がなんであったかは今でも時々聞くKing’s /Queen’s Englishという言葉によく現れている。

この話はそもそも論なので今の英国の放送英語が現在すべて統一されBBC英語になったかというと必ずそうではないようだ。むしろ実態は「揺り戻し」のようなものがあって出発点では無視された北部などの訛りのある英語も使われるようになった。その証に現在のBBCの海外向けの放送を見れば分かるが、アナウンサーの英語でも必ずしも標準英語ではないし、それを憂う海外の、例えば日本の、視聴者が存在することも事実である。

では、アメリカの場合はどうかというとこちらもやはり最も権威のある地域と階層が放送英語のベースになっていることは確かで北部、ニューヨークからボストンの上流階級のそれがそもそものベースなのは確かだと思える。さらに言うとこの地方の英語は英国とのつながりも伝統的に強かった為アメリカ全体よりもイギリスに近い発音がよしとされてきたのではないかと思われる。比較的最近でもFDR、Franklin Delano Roosevelt 大統領の英語なども録音で聴く限り現在の標準英語よりもう少し北部上流階級の「風味」がする。その後の放送の発展の中でアメリカの標準英語はもう少し中西部よりの英語に近いところで落ち着いたのではないかと思える。

アメリカは広い、その分バラエティも極端になってくるためか少なくともアナウンサーの話す英語は南部や西部の英語ではない。アメリカの場合権威の最たるものがFDRのような大統領だとするならば、今の大統領の英語は基本は中西部であることは、訓練された英語であることも含めてロナルド・レーガン大統領のそれであろう。彼はイリノイ州出身である。例外的に南部なまりで話したカーター大統領を除けば近年の標準英語は広くアメリカ北部から中西部を抜けてカリフォルニアまで達する広い地域で使われる英語ということができる。このベルトは更に北のカナダの英語も含むと思われるのはアメリカのアナウンサーの一部はカナダ出身である事実が物語る。

さて英語が母語でない国の国際放送の英語、つまり日本の国際放送が使って特におかしく無い放送英語は何が良いかという事だが、これは一言で言うとMid-Atlantic English (大西洋の中間の英語)つまりアメリカ英語とイギリス英語の中間の英語では無いかと思える。どこにも無い英語、国籍の無い英語が求められるのでは無いかと思う。しかしこれは全くの個人的な意見である。日本なまり丸出しの英語でも良いような気がするのだがあくまで通用する範囲にしてもらいたい。少々苦言を呈するとテレビ時代を迎えた日本の国際放送のアナウンサーは一定のレベルに達しているが、出演者やレポーターの一部には日本訛りを通り越して英語そのものの質が極めて低い人材が関わっているのが残念であり不思議である。日本というただでさえ口下手で自己主張が下手な国のせめて国際放送の英語くらいは世界に通用する英語で放送されてほしいものだ。

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