第20回:GNNの頃

 僕は基本的にはラジオ、それも短波ラジオの英語アナウンサーだった。しかし、約一年テレビのニュースを読んだ事がある。少し回りくどいが、まずGNNの話をしなければならない。CNNではない、GNNだ。GNNの事を聞いたことがある人は一部のNHK関係者以外恐らくもうほとんどいないことだろう。知る人ぞ知る、と言うか、ほぼ誰も知らないGNNの頭文字はGlobal News Networkを省略したものである。第15代NHK会長だった島桂次氏が1991年4月、CNNに刺激され、欧米の放送局(イギリスBBCとアメリカABC)と提携したニュース専門局構想を発表した。あの頃GNN構想の足慣らしとしてビジネス番組をアメリカABC放送に提供すると言う話が動いていたようで、「クローズアップ現代」のキャスターだった国谷裕子さんが、アメリカの知名度の高いキャスター(名前が思い出せないがABCの元キャスター)と組んで30分位のニュースを公共放送に送っていた。そして、その副産物として同じスタッフで5分位のビジネスニュースをABCに送っていたのだ。しかし島会長は失脚。その結果GNN構想は無くなり、30分ニュース、そして5分のビジネスニュースを作る母体もなくなってしまった。NHKはABCに放送を止めたいと言ったのだけれど、アメリカサイドは契約が残っているので継続を要求。すぐ止めることは出来なかった。そこでNHKは放送を作る母体がない中で何とかやりくりしてほとんど予算無しで「ごまかして」5分ニュースを作ろうとした。制作サイドはバイリンガルの若い女性を2名雇ってPD、コーディネーターをさせ、原稿と映像は今のテレビジャパンと同じくNHKの日本語放送から翻訳、編集して間に合わせた。そして最後に必要だったのがそれを顔出しでプレゼントする人間で、一体誰が思いついたのか知らないが、組織の上の方が「そういえばNHKの国際放送には英語アナウンサーと言うものがいて、もしかしたら使えるかもしれない」、ということで、まずバイリンガルの女性、そして結局僕のところにお役が回ってきた。おそらく1年位埋めただろうか。現場は結構綱渡りだったが、それより何より一番困ったことは冒頭のやり取りで、向こうのキャスターの言っていることが、時差があるのでよく聞き取れないこと。なんで続けるのだろうと思ったが、あちらとしてはコミックリリーフだったのだろう。そのうちNHKは使っていた回線を他のことに(今のNHK World)に使いたいと言うことで、契約更新時にいよいよ打ち切りと言うことになり、僕のテレビニュースの仕事も無事終わった。これはテレビ国際放送の先駆けだった。

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