第050回:フランダースの野に揺れるポピーの花

先日、ちょうどアメリカ大統領選挙中にBBC放送を見ていたらアナウンサーが赤いポピー(ひなげし)の花のバッジをつけていた。アメリカに住んでいた僕は恥ずかしながらつい最近までこの意味がわからなかったのだけれど、イギリスやカナダでは伝統的に毎年11月の第一次世界大戦終了の追悼の日曜日に着用される様だ。

 赤いポピーは、1921年に戦没者追悼のシンボルとして使用され始めた。しかし何故ポピーなのか、また何故赤いポピーなのかについては少し説明が必要となる。実はこの花は、第一次世界大戦の最も過酷な戦場だったフランス北部とベルギーの多くの畑で自生するために選ばれた。

 その使用は、戦闘に従軍したカナダ人医師のジョン・マクレイが書いた詩に触発された。この詩は、「フランダースの野にポピーが揺れる。十字架の列の合間に…」と始まる。

In Flanders Fields

BY John McCrae

フランダースの野に

 ジョン・マクレイ

In Flanders fields the poppies blow

Between the crosses, row on row,

    That mark our place; and in the sky

    The larks, still bravely singing, fly

Scarce heard amid the guns below.

 フランダースの野にポピーが揺れる。

 私たちの位置を示している

十字架の列の合間に。そして空には、

 勇敢にまだヒバリは飛ぶが、

 銃声の中その歌声はほとんど聞こえない。

We are the Dead. Short days ago

We lived, felt dawn, saw sunset glow,

    Loved and were loved, and now we lie,

        In Flanders fields.

 われわれは死者だ。少し前

 われわれは生きていた、夜明けを感じ、夕日の輝きを見た。

 愛し、愛され、そして今、われわれは横たわる、

 フランダースの野に。

Take up our quarrel with the foe:

To you from failing hands we throw

    The torch; be yours to hold it high.

    If ye break faith with us who die

We shall not sleep, though poppies grow

        In Flanders fields.

 敵との争いを続けよ。

 力尽きた手から君の手に、われわれはトーチを投げる、それを君のものとして高く掲げよ。

 もし君たちがわれわれ死者との約束を破るなら、

 たとえポピーは生えてもわれわれは眠れない、

 フランダースの野に。

この詩は戦勝国の立場から戦士を称える内容に仕上がっていて、平和主義者は白いポピーをあるいは赤と白のポピーを身に付けるそうだ。

その観点で見るとやBBCの放送でも最近は必ずしも全員が揃って赤いポピーを付けている訳でもないのが興味深い。

ついでに、今回は全く蛇足になるが、以前広島の原爆記念碑に刻まれた言葉が一体誰が原爆を投下したのか、そして誰が死者に二度とこういうことがないように誓っているのかはっきりしないのはおかしい、と書いた記憶があるが、終戦記念日のある8月の頭になったら皆白いポピー、あるいはここ日本では折り鶴が良いかもしれないが、平和を象徴するバッジを胸に付け、死者に代わり、投下国に対して二度と原爆を使用してはならないとの意思表示をすべきではないかと思う。

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