第057回:大統領就任式の感想

暴徒が合衆国議事堂に乱入してから二週間後の1月20日、傷跡がまだ見える議事堂の前で第46代大統領ジョゼフ・バイデン氏の就任式が行われた。

最後までトランプがホワイトハウスを明け渡し、バイデンが大統領になると思っていなかった一握りの白人至上主義者、そして自分たちの存在が脅かされていると感じているかなりの数の普通の白人のアメリカ人にとっては一大衝撃事だったようだ。

しかし驚くべきことに、ここ日本にもトランプを信奉する人たちがいるようで、先の選挙は不正であった、すべて陰謀であると言う考えの日本人がいるのには呆れ返る。None of your business!「君たちとは何の関係もないことだろう」と言ってやりたい。ましてや、われわれは有色人種なのだから。本当に何の関係もないことなのだ。

今回の就任式はコロン禍の中、かなり参加者の規模を切り詰め、一方で暴徒を警戒して州兵も出動するなど厳しい警備体制の中で行われた。残念な部分もあるが、それはそれで良かったのではないかと思った。肝心な事は新大統領が平和裡に就任する儀式が形通り行われたことだ。

Lady Gagaレディー・ガガの歌うアメリカの国歌は迫力のある素晴らしいものだった。ラティーナ(ラテン系の女性)Jennifer Lopezジェニファー・ロペスももう一つのアメリカの国歌とも言えるWoody Guthrie ウッデイー・ガスリーのThis Land is Your Land 「この国は君の国」そしてAmerica,the Beautiful「美しきアメリカ」を歌い上げ、そしてカントリーミュージックの大スターGarth Brooks ガース・ブルックスも賛美歌Amazing Grace 「すばらしき神の恵み」を歌い、そして大統領の就任演説の後、今や恒例となった月桂詩人の詩の朗読が行われた。今年は弱冠22歳の黒人女性Amanda Gorman アマンダ・ゴーマンの“The Hill We Climb“「我々が登る丘」の朗読だった。

内容は一言で言えば、つい先週の暴動にもかかわらずアメリカの民主主義は存続するということを述べていた。

僕個人としては彼女のあざやかな黄色い上着、そして「これはラップか」と疑うようなレシテーションのスタイルはあまり好みではなかったが、後で聞くと彼女は“R“が発音できないという言語障害があり、タイプは違うけれどバイデン大統領と共通項がある。大統領もそうだが、彼女は障害を乗り越え、立派に壇上で朗読したわけだから、なかなかの人物だと思える。

歌と詩だけをとってもこの就任式の組み合わせは、まさに白人至上主義とは全く反するパラレルユニバースであるもう一つのアメリカ、つまり多民族が協力しあって作り上げるアメリカ、大統領が何度も訴えたユニティUnityを標榜した国、まさにUnited  Statesがシンボリックに段上に構築されるのを見た気がする。

思い出話になるが、朗読に限って言うと、僕がアメリカに渡ってまだ3年目の1961年。ケネディ大統領就任式の式典で最初の月桂詩人としてロバートフロストがケネディ大統領の有名な演説の直後に詩を読んだのはまだ覚えている。

 拍手の後、ケネディはアメリカの偉大な詩人の一人を表彰台に迎えた。ニューイングランドのロバートフロスト。

フロストはその時のために詩を書いていて、朗読しようとしてマイクに近づいたが、雪に覆われた国会議事堂のまぶしさに持ってきた詩を読むことができなかった。

しかし、フロストはすぐ、1942年に書いた詩” The Gift Outright “ を暗唱した。

僕の記憶は、フロストは詩の朗読を中止したかと思っていたが、実際には元々ケネディに依頼されていた、以前書いた詩を空で暗唱したと言うことであったようだ。非常に短い詩だったのでそういう誤解が生じたのかもしれない。

“The Gift Outright”は多くの人々を感動させた。

もちろん僕は単にテレビ画面で見ていたただけだが、あの日のアメリカの一部であった事は確かだ。

この詩についてはまた別の機会に。

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