第046回:国際放送と女性アナウンサー

 最近韓国の外務大臣康京和氏が話題になっている。ご主人である延世大学校名誉教授の李一昺さんがこのコロナ自粛の時にニューヨークへヨットを買いに行くと言うとんでもない行動に出た為に立場上大いに困っている女性である。格好のネタで日本のテレビ番組でも微に入り細に入る報道合戦が始まった。どうやら文政権としては彼女を外して新規組閣をする見通しらしい。

さてここまで韓国の政治などおよそ畑違いの話題で始まったこのコラムだがこの方の背景で一つだけ思わず「やはり」と言わせた事実がひとつあった。それは彼女が元韓国の国際放送の、それも英語のアナウンサーだったと言う事実だ。

外務大臣就任後、日本の外務大臣との会談後の記者会見などで彼女の英語を聞く機会が何度もあったが、とにかく抜群に英語が上手い。最初の印象としてはおそらく帰国子女なのだろうな、と思った。しかし今回のとんだハップニングで分かった彼女の背景にある英語アナウンサーと言う「ミッシングリンク」。それにしても家柄が違うのだろうが、英語力についてはこれで大いに納得した。

さて、前説が長くなったがこのコラムでは過去にもっぱら男性のアナウンサーしか扱わなかったので、日本の国際放送にも女性アナウンサーはいるのだろうかと思われる方もおられるかも知れない。言わずもがなだが、もちろん存在する、過去にも存在した。

この関連でウイキペディアの英語アナウンサーの項目を見ると戦前戦後の女性アナウンサーの名前を確認する事が出来る。戦前には4名。戦後は12名の名前がリストアップされている。

戦前の四人はあいうえお順(苗字)で、

1)須山芳枝(ジューン須山)

2)戸栗郁子(アイバ・戸栗・ダキノ)

3)早川寿美

4)師岡 薫

とある。

このうち歴史上に東京ローズとして名が残るのが戸栗郁子、アイバ・トグリ。第2次世界大戦中、日本から連合軍向けに英語宣伝放送を行った日系二世のアナウンサーだ。ロスアンゼルス生まれの彼女は地元の大学在学中の1941年、叔母の病気見舞いに来日したが、12月の戦争勃発により帰国できなくなり、生活のためにタイピストとしてNHK海外局に勤務していた。職場でスカウトされ、連合軍向け宣伝放送「ゼロ・アワー」の放送を行った。当時トグリを含む女性アナウンサーは前線の米軍兵士に「東京ローズ」と呼ばれ、評判になったが、戦後名乗り出たのは彼女一人であった。しかし、(大先輩の水庭進氏も含めて)須山芳枝が真の東京ローズだと主張する人もいる。

いずれにせよ東京ローズと呼ばれた女性たちの数は実際にはかなり多かったようで、そういう意味ではこの記事は十分でない様に思う。国際放送について書かれたブログ資料にはより多くの名前が載っている。単なるブログなので信憑性はやや低いと思うが、東京ローズ関連のあるブログに見られる名前は以下の通り。

アイバ・戸栗

ジューン・須山

ルース・早川・寿美

キャサリン・師岡・薫

以上四名についてはウィキの「英語アナウンサー」の項目にも載っているが、上記二名についてはウィキでは分からなかった英語のファーストネームが分かる。その他、

マーガレット・加藤・弥恵子

古屋・美笑子

キャサリン・藤原

フサヨ・サカエバラ

メアリー・石井

ウメコ・松永

フランシス・タビー

リリー・アベッグ

フランシス・ホプキンズ

メリー・樋口

最所フミ (Foumy Saisho”マダム・トージョー”)

以上の中で僕が会ったことがある(と思っている)のは最所フミさん一人。僕の入局当時もうアナウンサーの仕事はしておらず、確か国際局のどこかの部署で翻訳などをなさっていた様に記憶している。

戦後の女性アナウンサーは12名、職員のみ。この辺りは、ウイキピデイアの記事は正確だと思う。むしろ戦後相当遡るようで僕が聞いた事がない人も数名いるし、職員のみで出演者の名前が無いのは現場を知る人間にとっては寂しい。

青谷優子

飯田和子

岩崎夏子(三浦夏子)

久保かほる(江本かほる)

小島エリ子

小林りか

高雄美紀

田代杏子

福島優子(野村優子)

服部絢子

森川淑子

山本美希

現在のテレビ国際放送の現場を担うのは実は女性で、語学に強い女性が何故もっと積極的に雇われなかったか、は誰でも不思議に思うことだ。

一つの大きな理由は二十四時間体制の放送につきものの深夜早朝の放送、いわゆる「泊まり勤務」に女性は耐えられないだろうと思われてきた事だ。さらに言うと限られた定員のなかで泊まり勤務ができない女性を増やすと勤務が「回らなく」なってしまうと言う現実があった。しかし今や英語放送はテレビが主体で24時間体制の短波放送も無くなった。職員は増えず、契約社員が主体となっているのが現実だ。

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